EUにおける電子インボイス推進のネック
EUでは2010年7月13日付の指令(Directive)2010/45/EUを以って税制の改正が行われました。主眼の一つは電子インボイスの普及促進を図ることで、改めてインボイスは電子でも紙と同等に扱われ、電子だからといって余計な手間が掛かるということは無しにすることが確認されました。しかしEUではそう簡単に行かない理由があります。
EUの基本的なコンセプトはEU加盟国全体を恰も一つの国であるかのごとく統一された調和のある経済圏として形成することです。従って加盟国間の貿易は国内取引のように扱われ、いわゆる輸出入という扱いは加盟国外と取引する時に適用されます。ここで問題となるのが付加価値税(VAT)の取扱です。
例えば日本の場合、消費税が凡そVATに該当しますが、国外に輸出する時は、相手国の輸入者から「日本での消費を対象に課税される消費税」を徴収する訳にはいきませんので、免税となります。その代わり、日本への輸入の場合は、品代には消費税が輸出者によって上乗せされていないので、消費税分は別途日本で納税することになります。
EUのVATも域外との輸出入については、これと全く同じ考え方が採られますので、特段問題は生じません。問題は「域内での国際取引」です。域内取引は例え国際取引であっても恰も国内取引と同じ扱いにするというのですから、当然国内取引に適用されるVATが域内国際取引にも適用されることになります。しかもEUのVATは、日本の帳簿方式とは違ってインボイス方式です。輸出者は輸出国の税制に従ってVATを納税し、納税額を輸出インボイスに載せて品代と一緒に輸入者から入金する形になります。輸入者がそれを国内で販売するとすれば、品代に輸入国の税制に基づくVATを上乗せしたインボイスを国内の買主に発行することになります。輸入者が買主から受け取ったVATを納税するにあたり、輸入者が輸出者に支払った輸出国のVAT金額の控除を受けることになります。(一部リバース・チャージといって域外との貿易と同様に輸入者が輸入国のVATを納税するシステムもありますが、適用は限定されています。)
これが問題になるのは、そのVAT税率等が域内各国でまだ統一されていないことです。 これについて加盟国間ではVAT取扱に係る “Common System” を持つべく、遅くとも2013年1月までに協定がつくられることになりました。 VATが整理・標準化されないままインボイスを電子化しようとすると、システムが無暗に複雑になってしまいます。使い勝手やコスト、どの面をとっても利用者が二の足を踏むことになり、電子インボイスへの転換が促進しにくいというのが現状です。
上記のような利用者を後ろ向きにさせる環境の他、インボイスの標準(何を以って真正性Authenticityや完全性Integrityが維持されていると判定するのかの基準も含めて)やフォーマットが各国によりバラバラなこと、および、電子取引に係る適用法が各国異なり、法体系の協調ができていないことの都合3点を、EUの内部では「Barriers to switching to e-invoice」として挙げています。
(2011.03.12/KW) → Return to Index