ASEAN Single Window は、今どのような状況か

JASTPRO(日本貿易関係手続簡易化協会)の主催で、「貿易円滑化のための国際連携」セミナーが、20111115 世界貿易センターにおいて開催されました。同セミナーにおいてPAA (Pan Asian e-Commerce Alliance) のマレーシア代表である Dagang Net社の、行政手続関連部門部長 Mr. Wan Ahmad Syatibi が、“ ASEAN Single Window Project Status Updates ”と題した講演をされました。

ASEAN Single Windowがインドネシアの呼びかけで提唱されたのは2007年ですが、それ以降、標準フォーマットに国連e-Docを使用するかとか、法的枠組みをどうするかとか、地道な検討やトライアルが続けられて来ました。ASEAN Single Windowというのは、先ず各国がそれぞれNational Single Windowを持つことが前提となります。日本政府がこのASEAN Single Windowの一角を担うベトナムに、ベトナムとしてのNational Single Windowを構築するため、日本からNACCS型の電子貿易関連システムとその運用ノウハウを提供することになったことは、このサイトの今月1122日付関連記事「NACCSの今と、今後の方向性」(注:このページにはブラウザーの矢印←をクリックしてお戻りください)に掲載の通りで、日本にとっても今少し身近な事として考えられるようになりました。このような時にASEAN Single Windowが今、どのような状況になっているか、ASEAN側からの情報をUP DATEしておくことは大変有意義でした。

現在、マレーシアはインドネシアと、ASEAN Single WindowFeasibility Project として、域内のePCO (electronic “Preferential Certificate of Origin”  FTA対象国間で交わす特定原産地証明) であるATIGA (ASEAN Trade In Goods Agreement) Form D(かつての CEPT Form D)およびACDDASEAN Customs Declaration Documents)の相互データ交換を実施しています。(仕組みについては後述します。)マレーシア側でこのProjectの遂行にあたっているのがDagang Net社で、PAA諸国の中では、ASEAN Single Windowの現状を特に熟知する立場にあります。尚「Single Window」の目的や機能につきましては、上記しましたこのサイト1122日付の記事でご参照いただけます。

今回の講演で注目された点は、ASEAN各国がそれぞれASEAN Gatewayを持ち、Central Gateway は置かない方向で固まり、その結果として取引データや税関関係データはASEAN各国それぞれの中だけに保存され、また所有されるとの申し合わせとなったということです。講演ではその理由として、Central Gateway方式を採った場合、ASEAN各国の中で自国にCentral Gateway を誘致したい国が多く名乗りを上げることが指摘されていました。しかしその背後にあるのは多国間でのRegional Single Windowを構築しようとする時に、以前から必ず問題となる点のようです。即ち、ASEAN域内での二国間取引に、都度Central Gatewayが設置された第三国に取引データを経由させることに、国内法的な制約が根強くあるということです。(自国にCentral Gatewayを設置すれば、取敢えず第三国にデータが流れることは無くなるので、自国の法的制約はクリアできることになります。)

ASEANの域内で現在National Single Windowを運用しているのは、シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、フィリピン、ブルネイの6カ国です。ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーの4カ国は2015年までにNational Single Window を稼働させることになっています。このうち、ベトナムについては、上述の通りですが、カンボジアについては国連UNCTADが開発した電子貿易システムASYCUDAの導入により対応する予定となっています。またラオスについても、電子通関の部分にASYCUDAが使われていますので、SWへの拡張ということも検討されると思います。

ATIGA Form D(域内特定原産地証明)の国際相互交換実証実験

参加国:          マレーシア、インドネシア、フィリピン

実験開始:      2009

実験用基盤:   実証実験については、輸出入両国のNSWが直接連携するのではなく、現在ASEANの議長国を務めるインドネシアに、仮にASEAN Single WindowCentral Service PortalPAA メンバーであるPT EDI Indonesia社が受託運営しています)を設置する形をとっています。前述の通り、ASEAN Single Windowが本来の姿で運用が開始された暁には、このCentral Service Portalは排除される予定の由です。

実績件数:

ATIGA Form D 発給国 → 受領国

2009

2010

マレーシア → インドネシア

4,369

14,176

インドネシア → マレーシア

6,076

24,472

マレーシア → フィリピン

1,294

7,015

フィリピン → マレーシア

76,

28

Form Dの流れ: (マレーシアからインドネシアへの輸出で説明)

・マレーシアの輸出者がマレーシアNSWに向けて発給の電子申告を行う。

・マレーシア通商産業省(発給機関)が認可しNSW上にForm D発給。

・インドネシアのCentral Service PortalForm Dが伝送される。

・更にCentral Service PortalからインドネシアのNSWに伝送される。

・インドネシアのNSWからインドネシア税関に伝送される。

・インドネシア税関から返信されるAcknowledgementUtilization ReportForm Dで認可された枠のどこまで消化されたか)が上記のルートの逆をたどってマレーシア側に伝送される。

・因みにインドネシア側ではデータで伝送されたものについては書面の提出は求めていない。

( KW / 2011.11.28 Return to Index